子どものゲームは何時間まで?言語聴覚士が見る4つのこと

子どものゲームは何時間までなら大丈夫?
言語聴覚士が「時間」の代わりに見ている4つのこと
「ゲームは1日何時間まで?」
これは、保護者の方からいちばんよくいただく質問です。
けれど言語聴覚士として子どもを見るとき、私はその数字を記録していません。代わりに書き留めているものがあります。
この記事では、ジースク(G-sc)のスタッフが子どもたちのゲーム場面で実際に何を見ているのかを、研究とあわせてお話しします。
「何時間ですか」と、私たちが聞かない理由
保護者の方から、いちばんよく聞かれるのがこの質問です。
「うちの子、1日3時間くらいやってしまって……」
その3時間が心配なのは、とてもよく分かります。
ただ、私がそのあとに伺うのは、たいてい別のことです。
Q.そのとき、誰と遊んでいますか?
Q.終わったあと、機嫌はどうですか?
Q.その3時間の前には、何をしていますか?
意地悪をしているわけではありません。
言語聴覚士が人のコミュニケーションを評価するとき、「どれだけ話したか」を数えることは、ほとんどないからです。
数えているのは、量ではなく「成立」です。
伝えたいことが相手に届いたか。届かなかったとき、その次にどうしたか。
ゲームの2時間も、同じように見ています。
研究も、「時間」を主役から降ろしはじめている
これは現場の感覚だけの話ではありません。
ゲームと子どもについての研究も、この10年ほどで少しずつ見る場所を変えてきました。代表的な3つを紹介します。
1|同じ時間でも、中身によって結果は逆向きになる
2014年に発表されたメタ分析があります。
メタ分析というのは、たくさんの研究をまとめて分析し、全体としてどんな傾向があるのかを調べる方法です。ひとつの研究だけで判断するより、ずっと確からしい話ができます。
暴力的なゲームと向社会的なゲームでは、結果が逆向きに出た
GreitemeyerとMüggeの分析では、暴力的な内容のゲームをよく遊んでいる人で攻撃的な考えや行動が増え、人を助けるような行動は減っていました。
一方、助け合いや協力をテーマにした「向社会的」なゲームでは、まったく逆でした。攻撃性は下がり、人を助ける行動は増えていたのです。
同じ「ゲームをしていた時間」なのに、向きが逆になる。
時間という物差しだけでは、その時間がプラスなのかマイナスなのかすら判定できない、ということです。
2|「誰と、どんな場所で」が効いてくる
オンラインのコミュニティへの参加と、人とのつながりの関係
ゲームの中の「仲間」は、画面の中の存在ではありますが、関係としては実在します。
励まし合うチームもあれば、暴言が飛び交う部屋もある。同じゲームソフトでも、そこにいる人が違えば、子どもが持ち帰る経験はまるで別物になります。
3|矢印は、片方向ではなかった
ゲームは「原因」にも「結果」にもなっていた
2025年、Psychological Bulletinという心理学の学術誌で大きなメタ分析が発表されました。縦断研究とは、同じ子どもを何か月も、何年も追いかけて調べる研究です。だから「そのあとどうなったか」が分かります。
結果、スクリーン利用と、感情や行動の困りごとのあいだには小さいけれど確かな関連がありました。そして、その関連はゲームでいちばん強く出ていました。
ただし、この研究のいちばん重要な発見は、その先にあります。
ゲームの時間が長い子は、そのあと困りごとが増えやすい。
けれど同時に、もともと困りごとを抱えている子ほど、そのあとゲームの時間が増えていた。
しかも「困りごと → ゲーム」の向きのほうが、関連は強く出ていました。
研究チームは、これを悪循環と表現しています。
長いゲーム時間は、解決すべき課題であると同時に、何かのサインでもあります。
時間だけを削っても、そのサインの元にあるものは残ります。
私たちがゲーム場面で見ている4つのこと
では、時間の代わりに何を見ているのか。
ジースクのスタッフがボイスチャットの向こうで聞いているのは、だいたい次の4つです。
この4つは、ひとつのやりとりの中で順番に起きていきます。
01発信|必要な情報を、相手に届く形で出せているか
たった数文字ですが、ここには高度な判断が入っています。
相手が知らないことを選び、相手が今すぐ使える形にして、間に合うタイミングで渡す。この3つが同時に成立しています。
出せない子もいます。敵を見つけているのに、黙っている。
教室で分からないところを聞けない姿と、重なることがあります。
02受信と調整|相手の言葉で、自分の行動を変えられるか
聞くというのは、耳に入れることではありません。
それによって自分の動きが変わったとき、はじめて「聞けた」と言えます。
自分の作戦を通したい気持ちが強い子は、ここでつまずきます。
そしてそのつまずきは、グループ活動や部活動で起きていることと、よく重なります。
03修復|伝わらなかったとき、言い直せるか
言語聴覚士として、いちばん注目しているのはここかもしれません。
コミュニケーションには、必ず失敗が混ざります。専門的には「修復(repair)」と呼ばれる、伝わらなかったあとの立て直しがあります。
同じ言葉をもう一度大きな声で言う子と、言い換えられる子がいます。同じ「伝わらなかった」でも、次の一手が違います。
ゲームは、失敗と言い直しが1試合のあいだに何度も起きる場所です。
コミュニケーションの練習の場としては、かなり贅沢な環境だと感じています。
04立て直し|負けたあと、どのくらいで戻ってこられるか
負けたときの反応も、大切な情報です。
- コントローラーを置いて、部屋を出ていく子
- 「次いこ、次」と切り替える子
- 「◯◯が悪い」と、仲間のせいにしてしまう子
どれが良い、悪いという話ではありません。
私たちが見ているのは、戻ってくるまでの時間と、戻ってくるときのきっかけです。
誰かの「ドンマイ」で戻れるのか。それとも、ひとりで静かな時間が必要なのか。
ここが分かると、学校や家庭でしんどくなったときに、どう手を差し伸べればいいのかも見えてきます。
ただし、「量」で見る場所がひとつだけあります
ここまで「時間ではなく中身」と書いてきましたが、時間で見るべき場所がひとつだけあります。
睡眠が削られると、翌日の集中力も、体調も、気持ちの余裕も落ちます。
そして、さきほどの研究が示していたとおり、気持ちの余裕が落ちると、またゲームの時間が伸びやすくなる。
悪循環は、たいていここから始まります。
だから私たちは、ゲームの時間そのものよりも、就寝時刻のほうを気にしています。
ジースクのルールは、制限ではなく「環境設定」です
ジースクでは、Discordなどを使って友達とゲームを楽しめる時間に、一定のルールを設けています。
これは、ゲームを減らすためのルールではありません。
子どもが持っている力を発揮しやすくするための、環境の設定です。
平日の日中を開けていない理由
学校に行かずに家で過ごしている子にとって、友達とつながれる場は本当に大切です。
一方で、その場が平日の午前中から開いていたら、学校に通っている子にとっては「今日は休もうかな」のきっかけになってしまう可能性があります。
私たちは、ゲームを理由に学校や日常を手放してほしいわけではありません。
だから、平日の日中はそれぞれの生活を優先し、友達と交流する時間は、学校生活と両立できる範囲に置いています。
21時以降を開けていない理由
この言葉に悪気はありません。楽しいから出てくる言葉です。
睡眠を守ることは、翌日の学校を守ることであり、
結局は、ゲームを長く楽しめることにつながるからです。
「見ている大人がいる」という設定
もうひとつ、ジースクの場が家庭でのオンラインゲームと違うのは、そこにスタッフがいることです。
- うまく言えなかった場面を、あとで一緒に振り返ることができる
- 言い直しがうまくいったとき、「今の伝え方、よかったね」と言葉にできる
経験は、そのままにしておくと流れていきます。
拾って言葉にする人がいると、経験は学びに変わります。
そこが、私たちの仕事だと思っています。
ご家庭でできる、いちばん小さな一歩
ここまで支援者の見方を書いてきましたが、実は、ご家庭のほうが有利な観察ポイントもあります。
ゲームが終わったあとの、お子さんの顔です。
これは、画面の向こうにいる私たちには見えません。
すっきりしているのか、余計にイライラしているのか。ゲームがその子にとって「楽しみ」なのか「逃げ場」なのかは、終わったあとの表情にいちばん出ます。
そのうえで、質問をひとつだけ変えてみてください。
「今日、何時間やった?」
返ってくるのは、数字だけです。会話はそこで終わってしまいます。
「今日、どうだった?」
返ってくるのは、出来事です。「◯◯とチーム組んでさ、最後めっちゃ惜しかった」——この一言のほうが、3時間という数字よりもずっと多くのことを教えてくれます。
おわりに|ゲームは、生活を映す鏡
ゲームには、子どもの生活を映す鏡のようなところがあります。
生活が整っているとき、ゲームは「楽しみ」になります。
生活がしんどいとき、ゲームは「逃げ場」になります。
だから私たちは、「ゲームは良いか悪いか」ではなく、
「この子にとって、今のゲームとの付き合い方はどうか」を見ています。
そして、その付き合い方は、変えていくことができます。
お子さんの「その2時間」を、一緒に見てみませんか
ジースクでは、ゲームが好きな子どもたちが集まる体験会を行っています。
やっていることは、特別なことではありません。仲間とチームを組んで、作戦を立てて、うまくいったり、いかなかったりする。
その中で、この記事で紹介した4つのこと——伝える/聞いて動く/言い直す/立て直す——を、スタッフと一緒に経験していきます。
- ゲームが大好きなお子さん
- 「ゲームばかりで心配」と感じている保護者の方
- 学校や集団の中で、うまく話せずに困っているお子さん
どなたも歓迎です。まずは一度、雰囲気を見にきてください。
「うちの子は当てはまるのかな」といったご相談だけでも大丈夫です。お気軽にお問い合わせください。
執筆者
RYO
言語聴覚士/G-sc(ジースク)
病院で成人領域のリハビリに携わる言語聴覚士。ジースクのコラムとnoteで、言語聴覚士の仕事や、ことば・コミュニケーション・食べることに関する支援について、現場の視点からわかりやすくお届けしています。
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同じ研究をもとに、noteでは「ご家庭では、どこを見ればいいのか」という角度から書いています。A君とB君、同じ2時間を過ごした2人の1日を追いかけた記事です。
次回は、子どもたちに人気の「フォートナイト」を題材に、ゲームの中で育つ5つの力を、言語聴覚士の視点から分解していきます。
参考文献
- Greitemeyer, T., & Mügge, D. O. (2014). Video games do affect social outcomes: A meta-analytic review of the effects of violent and prosocial video game play. Personality and Social Psychology Bulletin, 40(5), 578–589.
- Vasconcellos, R. P., Sanders, T., Lonsdale, C., et al. (2025). Electronic screen use and children's socioemotional problems: A systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Psychological Bulletin, 151(5), 513–543.
- Sachan, T., Chhabra, D., & Abraham, B. (2025). Social capital in online gaming communities: A systematic review examining the role of virtual identities. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 28. doi:10.1089/cyber.2024.0375


